私は、要らない子。

私は、そこには居ない。

私は、見えない。


あぁ…。


嫌だ。


もう、消えてしまいたい。


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私の母は、私が高校3年最後の日。

家に帰らなくなった。


帰らなくなった理由はすぐわかった。


母に愛する男と言うものが出来たから。


私に、母の愛など受けたことが無い…。


産まれてすぐの頃は、愛されていたのかも知れない…。

でも、物心つく頃には、母の愛は私では無く別の方へ向いたのだ。


私の母は、女として愛されていなければ生きていけない。


母は、私の母ではなく女だった。


私は創られた世界でしか愛を知らない。小さな頃、学校から帰ると、「外で適当に遊んでて、いい?今、彼氏が来てるから、入ってこないでよね!」そう言われて私は一人で公園に座っていた。毎日、毎日、同じことの繰り返し。ただ、私はボーッと座っているだけ。


だけど、この日。


私に一つの出会いが訪れる。


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「ねぇねぇ。何してるの?」


陽菜は声がする方に目を向けた。


「くまちゃん…?」


ベンチの背もたれから、現れたくまのぬいぐるみ。

陽菜は瞳を丸くさせた。


「こんにちは、一人で遊んでるの?実はね、君にお願いがあるんだ。」


「なーに…?」


「君とお友達になりたいって子が居るんだけど…恥ずかしがり屋で代わりに僕がお願いしに来たんだ。」


「友達?」


「うん!ちょっと、待ってね。ねぇ、咲来隠れてないで出てきたら?」



ぬいぐるみの後ろから、顔を出しにこりと少女は微笑む。


「こんにちは、良かったら私とお友達になって欲しいな」


「私と?いいの?」


「私は、咲来、さな宜しくね。この子はくまのそら」


「さなちゃん、そら…。私は、陽菜」


「陽菜ちゃん、宜しくね」


陽菜はその日、咲来から沢山の物語を聞かせてもらった。


その時間はあっという間で、


「もう、暗くなっちゃうね。お家まで送るよ?」

「大丈夫、お家は近いから、ねぇ、お姉さんは明日も…ここに来る?」


「うん。私は、よくこの公園に来てるから、明日もお話の続きしようね」


「うん!」


陽菜はその日、初めて楽しいと思える日を過ごした。


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それから、咲来との時間は増えて言った何日、何ヶ月…。


咲来の話す物語を聞くことは陽菜の特別な時間、ただ楽しく幸せだけがそこにあった。


「お姉さんのお話どれも大好き!」

「ほんと?陽菜ちゃんに気に入って貰えて嬉しい!実はね、今日は陽菜ちゃんに渡したい物あるの」


そう言って、咲来は小さな絵本を取り出すと陽菜に手渡し。


「陽菜ちゃんが1番好きなそらくまの話。これね、お姉さんのお友達と作ったんだ。その友達もお話を書くのが大好きで、私はそのお話に絵を描いてる。」


可愛らしい絵本に、陽菜は瞳を輝かせた、ぱらぱらとページを巡る、色鮮やかなその絵は、自分で想像した世界より何倍も輝いて見えた。


「凄く、凄く綺麗!!本当にもらって良いの?」


「うん!私の大好きなこの話を、大好きな陽菜ちゃんが1番好きって言ってくれたの嬉しかったから、陽菜ちゃんにどうしても持ってて欲しかったの」


「お姉さんありがとう!大切にするね!」


「私こそ!ありがとう。喜んでくれて、後、もう一つ。陽菜ちゃん、そらを貰ってくれないかな?」


「……そらくんを?お姉さんの大事なお友達」



「うん。大事なお友達、だから、大事なお友達の陽菜ちゃんにそらを貰って欲しいんだ。そらも陽菜ちゃんが大好きだから私ね、少しここに来れなくなっちゃうの」


「どこかに行くの?」


「うん、少しね…。また、私が陽菜ちゃんとそらに会いに行くから」


「わかった!そらくん私が一緒に居るね!」


「うん。ありがとう」


陽菜は、咲来からそらを受け取ると少し寂しそうに笑う咲来を不思議そうに見つめる。


咲来は陽菜をぎゅっと抱きしめ


「陽菜ちゃん、咲来とお友達になってくれてありがとう」


「咲来…お姉さん?…」


「…。もう、時間だねー…。陽菜ちゃんと話してると時間すぐ来ちゃう。また遊ぼうね」


「…うん、また遊ぼうね。お姉さん」


その日を最後に、咲来が陽菜の待つ公園に現れることはなかった。